「ARBEIT MACHT FREI」(働けば自由になれる)。その門をくぐると、私は世界とつながる。 学校のすぐそばにあるホロコースト記念館。そこで私は、ガイドを務めている。五年目になる。 ホロコースト。それは、ナチス?ドイツによるユダヤ人の大量殺戮。門は、強制収容所入り口のレプリカ。館内には、アンネ?フランクの隠れ家も再現されている。収容所で実際に使われた粗末な食器、囚人服、胸につけることを強制されたダビデの星などもところせましと並ぶ。百二十センチの棒もある。その下を通過した子どもは、小さすぎて「働けない」ので、「生きる価値なし」と判断され、ガス室に送られた。殺された人々を運んだのも同じユダヤ人だった。 「働ける」と判断されれば、女性も髪の毛を刈り取られ、入れ墨で腕に番号を彫られた。ナチスは、ユダヤ人から名前を奪い、家畜同様に、ものとして番号で呼んだ。 収容所内の強制労働には、右記以外にも、戦争遂行に欠かせない兵器などの生産や、他の収容者を管理する役目などがあった。後者は、直接的な憎悪がナチスに向けられず、ユダヤ人同士が反目しあう差別構造が仕組まれていた。 十五センチの靴。殺された子どもの遺品。百五十万人分の一の靴。何度見ても涙がこぼれる。「この子たちの無念は、私が必ず伝える」。そう、私は決心して、ガイドに立っている。 先日、他県の高校生を案内した。私は、ガイドの前に必ず、アンネ?フランクの父、オットー?フランク氏の言葉を反芻する。「平和をつくりだすために、何かをする人になって下さい」。 何度、同じ説明をしただろう。そして、私は何度、声を詰まらせただろう。この日も、そんな私の涙目を見つめ、説明に大きくうなずき、涙をためて聞いてくれる人々がいた。共感の涙が、世界の「平和をつくりだす」連帯になることを切に願う。 命の尊厳に優劣はない。民族も国境もない。私も、私のガイドを聞いてくれる人も、偽りの門をくぐると、真実を通じて世界とつながる。
第3分野に応募された作品の中で、一番感銘を受けた作品です。「戦争」と「平和」という難しいテーマにチャレンジしていて、十代らしい正義感が表現されている点に好感を持ちました。文章も読みやすくて、とても良いと思います。 第3分野では、自分の意見を押しつける作品や情緒に流れてしまう作品があります。この作品は館内の展示品が客観的な視点で書かれていることで、読者も作者と一緒に館内を見学しているかのように感じ、作者の気持ちが心にスッと入ってきます。このガイドとして伝えるという決心を大切に持ち続けてください。