#13 単身高齢者の包括的支援
従来の家族機能を
社会サービスとして提供する
新しい仕組みづくりを。

福祉経営学部 医療?福祉マネジメント学科
藤森克彦 教授
藤森克彦教授の専門分野は、社会保障政策。単身世帯、社会的孤立、貧困、公的年金制度などをキーワードに研究を進めています。また、みずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員を兼務しており、新聞?雑誌などへの執筆、講演も多数行っています。
社会課題
今後も増加が予測される、未婚の単身高齢者。
高齢化の進展などに伴い、65歳以上の単身高齢者は年々増加しています。
国立社会保障?人口問題研究所(社人研)が令和6(2024)年に発表した「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、65歳以上の単身(一人暮らし)高齢者数は2050年には1084万人にのぼり、2020年の約1.5倍になります。65歳以上人口に占める単身者の比率も、2020年の20%が2050年には28%に達する見通しです。
また、単身高齢者の配属関係も変化していきます。65歳以上の単身高齢男性に着目すると、未婚者の割合は、2020年では34%でしたが、2050年には60%になると推計されています。また、単身高齢女性に占める未婚者の比率は、同男性よりも低い水準ですが、それでも2020年の12%が、2050年には30%になると推計されています。
未婚者とは、生涯で一度も結婚したことのない人を言います。未婚の一人暮らし高齢者は、配偶者だけでなく、子どももいないことが考えられますので、高齢期に身寄りがない状態となる可能性が高まります。今後、身寄りがなくても、尊厳をもって暮らしていけるように、いかに「支え合う社会」を築いていくのかが、重要なテーマです。
INTERVIEW
身寄りのない高齢者が増えていく。
最初に先生の研究内容について教えてください。
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藤森
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私はもともと民間シンクタンク(現在のみずほリサーチ&テクノロジーズ)で、社会保障政策を専門領域とし、「一人暮らし」をテーマに研究してきました。研究のきっかけは、2000年代中頃の国立社会保障?人口問題研究所の将来推計です。その中で、中高年男性で未婚率が急上昇していくことが示されていました。こんなに高まるのかと驚いたことを覚えています。
中高年期の未婚化は、高齢期の未婚化につながります。もちろん、結婚する?しないは個人が決めることですが、未婚化に伴って、高齢期に家族のいない人も増えていくだろうと思いました。これまで日本は、家族の中での支え合いが大きな国でした。家族形態が変化する中で、支え合える社会をつくっていかなくてはならないと考えました。2010年に『単身急増社会の衝撃(日本経済新聞出版社)』を第一弾で出版し、大きな反響を得ることになりました。
昨年(2024年)4月、国立社会保障?人口問題研究所(社人研)が2050年までの推計を発表しましたが、中高年の未婚化は当時想定していた以上に進んでいます(社会課題のコラム参照)。将来推計は、これまでの傾向が続いた場合の「投影」であって確定した未来ではありませんが、この傾向が続く可能性が高いと思います。
高齢期の一人暮らしは、どうして増え続けているのでしょうか。
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藤森
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高齢期の一人暮らしが増える理由の一つは、「親と子が同居しない」からです。その現象は地方でも起こっていますし、東京でも増えています。もう一つの理由は、先述した「未婚化」です。未婚者は、配偶者のみならず子供もいないことが考えられるので、一人暮らしになりやすいことが考えられます。
そして、未婚の単身高齢者が増えれば、それに伴って「身寄りのない高齢者」も増加することが考えられます。私の問題意識は、「身寄りのない高齢者を含め、どのように支え合う社会を築いていくのか」という点にあります。
「身寄りのない高齢者」とは、具体的にどのような状況でしょうか。
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藤森
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「身寄りのない」という状況には、三つのタイプがあります。一つは「家族?親族がいない」、二つめは「家族?親族がいても頼れない」、三つめは「家族?親族がいても連絡が取れない」です。そして、東海地方で行った調査によれば、身寄りのない高齢者を100%とすると、「家族?親族がいない人」は2割ぐらいで、「家族?親族がいても頼れない人」が5割、残りの3割が「家族?親族がいても連絡が取れない人」になります。つまり、「家族?親族がいても頼れない」ゆえに身寄りがない状態になる高齢者が多いのですね。こうしてみると、高齢期に身寄りのない状況になることは、誰にでも起こりうることだと思います。

日本は、家族依存型福祉国家。
将来、頼れる家族がいなくなるかもしれないと思うと、かなり不安です。
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藤森
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日本は家族の役割が大きい「家族依存型福祉国家」なので、不安が強まるのだと思います。たとえば、親が介護を必要になった際に、介護の担い手としては、「家族」による介護、介護保険など公的制度を使った「政府」による介護、全額自己負担で市場からヘルパーなどと契約して行われる「市場」による介護、の3つが考えられます。どの国も3つの担い手を組み合わせていますが、その中で日本は「家族」の役割が大きい社会です。
2000年に公的介護保険制度ができましたが、今も、在宅で要介護者となった人に「主たる介護者」を尋ねると、「家族」と回答する人が6割にのぼります。社会保障制度をはじめとした様々な諸制度も、家族の存在を前提に組まれている面があります。
身寄りがない高齢者の場合、具体的にはどのような問題が起きますか。
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藤森
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たとえば、身寄りのない高齢者が急に入院して、入れ歯をアパートに忘れてきたとします。もし家族がいれば「わかった。今から取りにいく」で終わるのですが、家族がいないと大変です。地域包括支援センターや自治体などの職員が支援する場合、アパートの大家さんから鍵を借りて、誰もいない家に入って、入れ歯を探していく。これには、ものすごく多くの手間と手続きが必要になります。また、そもそもこれが業務の範囲なのかどうかという点も曖昧です。しかし、入れ歯がなくては、食事ができませんので、結局、支援者が自らの判断で入れ歯を取ってくることも多いと聞いています。

民間のサービスでは対応できないのですか。
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藤森
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こうしたサービスを請け負う民間の身元保証団体(高齢者等終身サポート事業)もあります。しかし、料金が高額になりがちです。例えば、生活支援などの料金が1時間あたり5千円になる身元保証団体もあります。また、民間の身元保証団体の中には、サービス提供方法や費用体系が複雑で高齢者が理解しにくい内容であったり、説明不足の面があるなど、信頼性の点で課題を抱えている団体もあります。求められているのは、長期にわたり身寄りのない高齢者に伴走しながら、包括的に必要な支援をコーディネートする機能だと思います。
身寄りのない高齢者を支える、知多半島の取り組み。
包括的な支援の中身について、もう少し教えてくれますか。
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藤森
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例えば、人生の最終段階では、病院や介護施設に入る際に身元保証人が求められることがあります。法的には身元保証人がいないことのみを理由に、病院や介護施設が入院?入所を断わることは認められていないのですが、実際には断る機関が少なくありません。また、通院同行や金銭管理などの日常生活支援も必要になります。先ほどの入れ歯の例のように「名もなき家事」と呼ばれるような多様な細々とした支援も必要になります。さらに、本人が亡くなった後の遺体の引き取りや、借家に残した家財の処分などの死後対応も必要になります。これらの支援は従来、主に家族が対応してきました。しかし、身寄りのない高齢者には、それを担う家族がいません。コーディネートをする機関が身寄りのない高齢者と信頼関係を築いて、包括的に支援したり、他機関につなぐことが求められます。
なるほど、人生の最終段階、その後もずっと支援が必要になるんですね。
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藤森
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そうですね。重要なことは長期にわたり身寄りのない高齢者に伴走しながら、必要な支援をコーディネートしていく機能だと思います。この点、本学のある知多半島では、NPO法人知多地域権利擁護支援センター(下の記事を参照)を中心に、地域の自治体や社会福祉協議会の方と一緒になって、身寄りのない高齢者を支援する仕組みづくりを進めています。具体的には、上記センターを中心にして、①見守りや安否確認、②入退院時等の支援、③死後対応のサービスを担う「くらしあんしんサポート事業」を始めています。また、身寄りのない人同士、あるいは身寄りのない人と地域住民と関係性を築けるような「互助会」も立ち上げたところです。

互助会の設立には、どんな目的がありますか。
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藤森
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身寄りのない人同士や地域住民が力を合わせることで、日常生活を支え合ったり、緊急時に連絡し合ったりして、お互いに支えあえる関係を築くことが目的です。考えてみれば、家族だけが「身寄り」ではなく、友人?知人、近所の人でも、身寄りになりうるわけです。こうした関係性があれば、結構いろいろなことを解決できるのではないかと考えました。たとえば、先述の「入れ歯を取ってきてくれ」ということも、親しい近所の人や友人がいれば、対応できることです。
ただ、日本人は「人様に迷惑をかけちゃいけない」という道徳観が深く根づいていて、家族以外の人に何かを頼むことはあまりしませんでした。たとえば、一人暮らしの高齢者に、電球の交換など「日常生活の困り事を誰に頼みますか」を尋ねると、スウェーデン、ドイツ、アメリカに比べて、日本は友人や近所の人に頼る人の比率が極めて低い水準になっています。一方、日本の単身高齢者が頼るのは、別居の家族です。しかし、家族が変容する中で、家族以外の人とお互いに助け合える関係ができれば、多くの人が今よりも暮らしやすくなるのではないかと思います。
身寄りがなくても心配をしなくてよい新しい社会をつくりたい。
これからの支援体制づくりについて、どのようにお考えですか。
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藤森
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これまで家族が担ってきた人生の最終段階における「日常生活支援」「身元保証」「死後対応」を社会で提供できるように転換していかなくてはならないと考えています。どのような機関が中心になってサービスを提供していくかは地域の状況により異なりますが、信頼性を確保するためにも国や自治体が関与していくことが重要です。
もう一つは、地域で沢山の居場所をつくって、家族以外の関係性を築いていくことです。今後、男性を中心に身寄りのない単身高齢者が増えていきますが、居場所は孤立を防ぐ場となりえます。何かの活動目的のために集まるというよりも、居場所にいることやそこでの雑談が、高齢期の単身者を見守り、互いのケアにつながっていければよいと思います。
最後に、日本は今、未曾有の超高齢社会に突入しているわけですが、これからの展望についてお聞かせください。
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藤森
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日本は、長年「家族依存型福祉国家」だったので、身寄りのない人が増えるというと「大変な状況になる」とネガティブに考えがちです。でも先に申し上げたように、これまで家族が担ってきた機能を社会サービスに転換したり、家族以外のインフォーマルな関係性を増やしていけばいいのです。それによって、今より多様で豊かな社会を築いていけるかもしれません。もちろん、これからも家族は大切ですが、たとえ頼れる家族がいなくても、孤立することなく、安心して尊厳ある人生を送っていけるような社会を築けたら良いと思います。

NPO法人知多地域権利擁護支援センターのチャレンジ
NPO法人知多地域権利擁護支援センターは2008年設立。認知症になっても、障害があっても、地域で自分らしく生きていけるように、その人々の権利や財産を守るための支援を行っています。

判断能力が十分でない人の
権利を守るために。
NPO法人知多地域権利擁護支援センターが生まれたのは、「自分が亡くなった後、障害のあるわが子の生活を見守ってほしい」という、ある親の相談がNPO法人地域福祉サポートちたに持ち込まれたのがきっかけでした。スタッフたちはその切実な思いに応えるために、成年後見制度(※)について一から学び、そのお子さんの成年後見人を受任。2008年に成年後見業務を専門とする組織を立ち上げ、知多半島5市5町(2008年当時。現在は4市5町)による「成年後見利用促進事業の実施に関する協定書」を締結し、行政による委託による後見業務を開始しました。
同センターに寄せられる相談は、子どもから高齢者まで幅広い年代にわたります。たとえば、親からの虐待により人権の侵害された子どもの事例、認知症を発症した高齢者が、ゴミの片付けや家賃の支払いができなくなった事例など…。とくに近年は、身寄りのない高齢者に関する新規相談が年間100件以上も寄せられている状況です。
こうした人権擁護活動の傍ら、同法人が力を入れているのは地域の啓発活動です。虐待防止や障害者差別解消に関する講演や、後見業務に関わる研修などを開いて、地域の人々が人権に対して高い意識をもつよう働きかけています。

※成年後見制度とは、判断能力が十分でない人が不利益を被らないように、預貯金の管理(財産管理)や日常生活のさまざまな契約行為(身上監護)などを本人に代わって行ったり、援助をしたりして個人の権利を守る制度です。
おひとりさまでも、人生の
最期まで安心して暮らせるように。
現在、同法人が力を注いでいるのが、2024年に立ち上げた「くらしあんしんサポート事業」です。身寄りのない高齢者が病院や施設を利用しようとすると、身元保証で困ることがよくあります。民間の身元保証会社を利用することもできますが、まずは「公」のサービスで支援できないだろうか。そういう狙いから、家族や親族などの身寄りのない人を対象にしたサポート事業をスタート。入退院時の身元保証などの支援から、亡くなったときの火葬や事務処理まで担っています。
この事業の特徴は、サポートを受ける人は互助会「喜楽会」への入会が必須条件であること。互助会でさまざまな行事を企画し、それに参加することで身寄りのない人同士が親睦を深め、困ったときに助け合うようにするのが目的です。身元保証や財産管理というと、家族や専門家の領域のように思われがちですが、実は近所の人や仲間がカバーできる部分も多くあります。認知症になっても障害があっても、最期を迎えるまで自分のことは自分でできることこそ、人生の幸せです。同法人は、地域コミュニティの助け合いを通じて、個々の尊厳を守りながら、誰もが安心して人生の最期を迎えることができるような地域づくりをめざしています。

- 福祉経営学部 医療?福祉マネジメント学科
- くらし?安全