#15 多様化する社会と英語教員の育成
多文化共生マインドを
身につけた英語教員を、
国際学部から。

国際学部 国際学科
米津明彦 教授
稲澤由以 教授
米津明彦教授、稲澤由以教授は、愛知県の県立高校や愛知県総合教育センターに勤務した経験をベースに、本学で英語教育に関心をもつ学生たちの教育に携わっています。両教授に、国際学部における英語教員の育成について話を聞きました。
社会課題
深刻化する、教員不足。
日本では、小学校から高校までの教員不足が大きな社会問題になっています。この背景にはいくつかの問題があります。一つは、教員が働く環境。授業の準備から部活の指導や学校行事の運営まで業務は多岐にわたり、長時間労働を余儀なくされています。さらに、いじめや不登校の児童?生徒のサポートなど、むずかしい問題にも対応しなければならず、精神疾患を理由に離職する教員も増加しています。こうしたことから、教育現場のブラック化が報道され、教職をめざす人が減少するという負のスパイラルに陥っています。
また、年齢構成の歪さも問題です。1970年代前半の第2次ベビーブームへの対応で、1980年前後に大量採用された世代の退職が進み、再任用の教員が増加。若い教員が増える一方で、40代の中堅教員が不足し、学年主任などのなり手がなく、経験の浅い若い教員が重い責任を担い、ストレスを抱えることにもつながっています。
このような過酷な労働環境を改善するために、部活動に関する負担の軽減、勤務時間の是正など、教員の働き方を見直し、ワークライフバランスを整える取り組みも行われています。
※言葉の使い分けについて。「教諭」は、教育職員免許法による普通免許状を有する、小?中?高等学校、幼稚園、養護?聾(ろう)?盲学校の正教員を指します。教員は、学校で児童?生徒?学生を教育する人を指します。教師は、学校の内外を問わず、教える人を指します。本稿では、教諭を含め、「教員」という表現を主に使っています。
INTERVIEW
教員をめざす若者が減っている。
教員不足が社会問題になっていますが、現場でどんなことを感じられますか。
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稲澤
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実際に教職をめざす学生が少なくなっているように感じます。最近は「人間関係に煩わされることなくスマートに生きたい」という学生が増えているようです。その結果、ブラックな職場と報道される学校にはあまり興味を示さないのかもしれません。また、教員養成系の大学ではなく、本学のような一般の大学で教員をめざす場合、教職課程として初年度から通常の学部の課程に加えて単位を取らなくてはなりません。そこで、「こんなにも勉強しないといけないのか」と負担に感じて断念する人もいます。また、最後まで教職課程をとっても、教育実習に行って現場の厳しさを知り、「思っていたのと違う」と進路を変更する人もいるようです。
やはり教員ではなく、一般企業を志望する学生が多いわけですね。
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稲澤
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そうですね。教育実習は大学4年生の5月、6月あたりにありますが、その前から就職活動は始まり、一部の企業では3年生の3月から内定が出されていると聞きます。内定をもらえば、残りの大学生活を楽しく過ごしたいという意識が働くのかもしれません。
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米津
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また、愛知県の教員採用試験を受ける場合、令和6年度受験では6月に一次試験、7月に二次試験、結果が出るのが8月ということになります。そこで不合格になれば、1年間、講師として勤務しながら再度受験に向けて頑張ることになります。そういう負担と不安を避けて、早く確実な就職先を決めたいという志向が強いのだと思います。ただ、それでも教員を目指す方は、本学にも多く在籍していますし、卒業後に多様なキャリアを積み、それを活かして教壇に立つことも選択肢として考えられるとよいと感じます。

教員に求められるニーズの変化。
ここ数十年で、教育の現場にも何か変化はありますか。
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稲澤
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社会が学校教育に求めるものが大きく変わりました。子どもたちの知識やスキルを伸ばす教育に加えて、先行きが不透明な中でも各自が人生を切り開き、協働により新しい社会を築く力の育成が強く求められていると感じます。さらに、近年は社会全体で変革のスピードが速くなっています。ITに関するリテラシーを高めるとともに情報を適切に活用する力も育てなければなりません。基礎?基本をしっかりと押さえ、思考力、判断力そして表現力を伸ばし、豊かな人生を送るために自ら学ぶ姿勢の育成が望まれます。そして、これまで以上に、教員は探究心をもって子どもとともに社会の課題に取り組むことが必要になってきました。そのためには、教員の心に余裕が必要であると感じています。
社会の価値観も多様化しています。
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稲澤
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そうですね。また、私が教員になった40年前と違って、社会のあり方が大きく変わり、人々の価値観が多様化しています。また、異なるバックグラウンドを有する人々と日常的に接するようになりました。これに加えて、社会において情報が更新されるスピードがますます速くなっています。「多様性」と「スピード」が教育においても、キーワードとなっています。
そうした多様化に、どのように対応していくことが求められているのでしょうか。
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稲澤
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いろいろな価値観、考え方の違いに柔軟に対応する力、異質なものを受け入れる姿勢が大切です。これは企業に就職する場合も同じだと思いますが、柔軟なコミュニケーション力が問われます。また、教員にとって、観察力も重要なスキルです。たとえば、クラスでぼーっとしている子がいるとします。その様子を単に眺めるのではなく、その背景で何が起きているのかを観察をもとに考える。あるいは、先輩の先生方の仕事ぶりを観察して、「あの先生はなぜそういう動きができるのだろう」と考える力がすごく大事だと思います。このようなスキルや考え方が教師としての成長につながります。
インターンシップによる実践的な教育。
国際学部で教職をめざすプロセスについて教えてください。
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米津
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国際学部ではまず、1年次のオリエンテーションで、英語科教員免許を取得するまでに必要な科目履修や実習の時期などについて説明し、学びの見通しをもった上で希望者のみが教職課程登録をしています。英語の教え方については、2年次と3年次の「英語科教育法」という科目で、中心的に学びます。特徴的なのは、2年次から、学生による模擬授業を複数回行い、授業実施後には学生同士が活発に研究協議を行うことです。どこが良かったか、自分ならこうするといった意見交換をとおして、より効果的な授業を作り出そうとする意欲を高めています。早期に授業の実施体験をして、その回数を継続的に増やしていくことによって、教科指導への意欲を無理なく高められています。

なるほど、実践的に英語教育が学べるプログラムですね。
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米津
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そうですね。そして、本学部では3年次の前期に学校でのインターンシップがあります。これは、近隣の小?中学校に教育委員会を通して依頼し、10日以上、40時間以上の就業体験を行うものです。この期間、教職課程の学生全員が学校を仕事の場として観察するだけでなく、さまざまな学年や科目の授業に参加させてもらい、校庭の整備などの業務にも取り組ませてもらうことにより、教員の仕事を総合的に体験させていただいています。
インターンシップを経て、学生の意識に変化はありますか。
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稲澤
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大いにあります。学生たちと話していると、インターンシップでの気づきは2つあるように思います。一つは職場での人間関係です。職場では自分からアクションを起こさないと、何も教えてくれないと。自分がどこまで理解できているか、これから何をしたらいいか、ということを声に出して、常にアドバイスを求める姿勢が大事だと気づくようです。もう一つは子どもたちとの人間関係ですね。子どもたちにどんな声をかけていけばよいのか、授業についていけない子にはどんなアプローチをすればいいのか。その場その場のコミュニケーションのとり方がむずかしく、現場の先生方の対応には学ぶ点が多かったと話す学生がいます。4年生の教育実習でいきなり教育現場に行くのではなく、1年前にこうした気づきを得ることで、学生たちはどんな力をつけていくべきかを考えて学んでいくことができます。
多様なものの見方?考え方のできる教員へ。
国際学部だからこその、教員育成の特色は何かありますか。
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米津
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本学は教員養成課程の大学とは違い、国際学部の学びが中心にありますから、まずはその学びをしっかり修めてほしいと考えています。現状、学部生の約半数が留学生ですので、その日常的な異文化環境のなかで「自分の当たり前が当たり前ではない」ことに気づき、さまざまなものの見方や考え方があることを学んでいきます。多文化共生マインドを身に付け、国内外で活躍できる人になるという大きな展望をもちつつ、それが教職にもつながっていることを徐々に感じてもらえればよいと思っています。また、本学部の科目「国際フィールドワークⅠ」も特徴的な学びです。1年次の2月に、カンボジア、マレーシア、フィリピン等の訪問予定国のなかから1つの研修先を選び、各自でテーマ設定をして、約2週間のプログラムに参加します。たとえば、提携大学を訪問して現地の学生と交流したり、農村地域や貧困地域に滞在して、現地の方から直接お話を伺ったりします。五感をフル活用し、実際に行ってみなければわからない暑さや匂いも感じながら現地の生活を体験することができます。

文化の違いを肌で感じる体験になりますね。
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米津
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まさにそうです。学生たちはさまざまな文化に触れ、自ら考えることや相互に尊重することの大切さを学んで帰ってきます。その上で、英語教育の体験機会を豊富に用意しているのも本学部の特徴です。先ほどお話ししたインターンシップとは別に、東海市との連携事業として、「東海市イングリッシュ?サロン」という文化交流会を年間5回ほど開催しています。ここでは、地域の小学生をキャンパスに招き、教職課程の学生が企画する小さな英会話レッスンを中心とした活動を楽しみます。学生たちは子どもたちとの交流から「教える楽しさ」を実感しているようです。
そういった豊かな体験がすべて学生たちの力になっていくわけですね。
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稲澤
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本当にそう思います。本学で身につけた多文化共生のマインドやいろいろな世代の人と交流するコミュニケーション能力は、教育現場で大きな力になります。子どもたちの価値観が多様化し、教員に求められるニーズも多様化している。だからこそ、国際学部で学んだ多様なものの見方や考え方を活かした英語教員に育っていってほしいですね。そして、教員になった後もずっとモチベーションを維持しながら、成長してほしいと願っています。

東海市イングリッシュ?サロンのチャレンジ
東海市イングリッシュ?サロンは、学生たちが運営する地域の子どもたちのための英語の学び場。「東海市大学連携まちづくり推進事業」に云顶娱乐棋牌_云顶娱乐网址¥app下载官网国際学部米津ゼミが提案し、採択されている活動で、英語によるコミュニケーションの楽しさを地域に発信しています。
子どもたちが英語に慣れ親しみ、
楽しく参加できるアクティビティを
学生グループが主体的に発信。
東海市イングリッシュ?サロン
云顶娱乐棋牌_云顶娱乐网址¥app下载官网国際学部米津ゼミ
連絡先 云顶娱乐棋牌_云顶娱乐网址¥app下载官网東海キャンパス
★東海市 大学連携まちづくり推進事業の実施
https://www.city.tokai.aichi.jp/shisei/1003503/1006692/1003576/1003578.html

ゼミ生たちがアイデアを凝らした
プログラムを作成して実施。
東海市イングリッシュ?サロンが始まったのは、2021年度。国際学部の米津ゼミが、英語教育をベースに地域の活性化に貢献するとともに、学びの機会を増やしたいと考え、企画?運営をスタートさせました。
サロンの対象は、地域の小学生たち。年5回、東海キャンパスの教室に地域の子どもたちが集まり、英語の歌やクイズ、ゲームなどを楽しんでいます。その具体的なプログラムを考案し、進行しているのは、米津ゼミの3年生が中心です。子どもたちの興味を引く歌やゲームを取り入れた2時間のプログラムを作成し、事前にゼミで司会進行のシミュレーションをして、細かい段取りをチェックした上で、本番にのぞんでいます。たとえば、単語の学習では、鼻や目など、体のイラストと名前(英語)が描かれたカードを並べて、カルタのようにカードを取り合うゲームを行ったり、お店屋さんを開いて英語で買い物をするゲームを楽しんだり、毎回、アイデア満載の内容を企画しています。

子どもたちが取り組みやすい
コミュニケーション重視のアプローチ。
2020年度から小学校第3?4学年では「外国語活動」として英語教育が必修化され、第5?6学年では「外国語」として教科化されました。こうした英語教育の早期化により、英語の授業を楽しみにしている子どもたちがいる一方、「英語嫌い」になる子も残念ながら増えているといいます。そのような現状を踏まえ、同サロンでは、子どもたちが取り組みやすいアクティビティや学生との交流を通して、英語を聞いたり話したりするコミュニケーションの楽しさを実感できるよう心がけています。また、アジア各国から来日しているゼミの留学生と交流できるのもサロンならでは。子どもたちは、異なる文化をもつ人と一緒のテーブルにつき、笑いながら自然な関係をつくっていきます。
中学?高校の英語教員をめざす学生にとっても、同サロンの運営は、小学校から中学?高校へと続く英語教育の流れを理解する貴重な機会になっています。ゼミ生たちはプログラムを考える際、小学校の英語の教科書を参考にするので、中学入学までにどのような英語教育が行われ、子どもたちはどの程度の英語に触れているかを把握できます。また、日頃は子どもたちと交流する機会のない学生が、子どもたちと同じ目線でコミュニケーションを取りながら、想定外の発言や行動に驚いたり刺激を受けたりすることもしばしば。子どもたちから元気をもらいながら、子どもと関わる仕事の魅力を感じているようです。

今後の目標は、ゼミの学生自身が主体的に企画する部分をさらに増やし、国際学部の他の学生たちにも呼びかけて同サロンに関わる学生を増やしつつ、子どもたちの希望を取り入れた地域連携事業として発展させていくことです。少し規模を大きくしたイベントなども企画し、地域の方々との関わりを深めながら、英語教育を楽しく盛り上げていきます。
- 国際学部 国際学科
- 文化?スポーツ