昨年、修学旅行で沖縄県を訪れた時のことである。そこで戦渦に巻き込まれ、尊い命が奪われた方達を埋葬した慰霊碑を見学した。厳しい現実を目のあたりにしたが、同時に外国の方の名も刻まれていたのには驚いた。国籍を問わず、軍人?民間人の別なく、全ての戦没者の氏名を大切にした、その思いにとても胸を打たれたのである。 しかし、戦争が終結し早七十年が過ぎても世界のどこかで悲しい争いが起き続けている。改めて恒久平和への祈り、国際協力への確かな道のりを歩んできたはずなのに。 ネット社会で情報が溢れる時代のもっとずっと前から、人々は自国や異国の文化の発展のために異国の地へ降り立ってきた。例えば運命に翻弄されながらも、日本と韓国の架け橋になろうと努めた李方子さんもそうだ。過酷な運命に巻き込まれても、異国の地で暮らす夫を支え、さらには戦後夫の国へ行き、教育の発展のため情熱を捧げていったのだ。 そんな方子さんを支えたのは、日本語を話せたキム?スイムさんであった。主に福祉の道に尽力された二人は、互いの利益や国の争いに巻き込まれることなく、心を通わせながら人生を歩んでいったそうである。 両親の仕事で韓国に暮らしていた僕も、たくさんの韓国人に助けられた。言葉が分からない僕に、いつも優しく接してくれたサンガのおじさん。大好きなサッカーを通して友達も増えた。みな、隔てなく接してくれた。 ある日、スイムさんと偶然バスの中でお会いしたことがあった。何気なく、いつになったら争いのない世界がくるのか聞いてみた。すると、まっすぐな目で「欲をもたないことだ」と答えたのである。 まさにその通りである。足るを知る。それは物欲ではなく心の安定なのだ。心が豊かであれば、人は強く、優しく、正しく生きられるのだ。僕もそんな心をもち続けたい。そして世界の平和につながるよう、願うばかりだ。
修学旅行で沖縄県を訪れた時に見た慰霊碑に外国の方の名前も刻まれていたことを導入として、しっかりまとめられた作品です。日本と韓国の関係を考え、そこに自分が韓国で暮らしていた時の思い出も加えるなど、作者の体験談に基づいたエッセイとなっている点を評価しました。争いのない世界を作るためには、「欲をもたないこと」や「足るを知る」ことが大切だという本質をつかみ、自らも豊かな心を持ち続けたいとしっかり主張している点に、とても共感しました。