「一緒にドッジボールしよっ!」。 これは私が小さい子と仲良くし、コミュニケーションをとりたい時の魔法の言葉だ。 私が小さい頃、祖母の家がある田舎へ行くと、当時、小学生、中学生くらいの地元の男の子が私と妹をサッカーやドッジボールなどに誘ってくれた。その時、その時で知らない子たちもいたが、一緒に運動をした後は自然と仲良くなっていた。そんな年上のお兄さんたちも大人になり、以前、久しぶりに行ってみると、別荘に遊びに来ている子や地元の子、何人かの子どもたちがいて、気がつくと私が一番年上になっていた。年齢?性別がバラバラな子どもたちが、それぞれで、DSやPSP、スマホなどを使ってゲームをしている。今度は私が誘う番だと思い、思いきって言ってみた。 「一緒にドッジボールしようよ!」。 実は私は、運動が大の苦手だ。部活も習い事も運動から縁の遠いものをやってきた。五十m走は必ず隣のレーンの子より遅い。リレーでは後ろの子にだいたい抜かされ、体育祭では周りの足を引っぱらないようにとヒヤヒヤしていた。そんな私が、自分から一緒にスポーツをしようと誘えるのは、スポーツを一緒にすることの力の大きさを知っていたからだ。 誘った後、別々のゲームをしていた子たちが、同じルールで同じコートの中、同じボールを追いかけみんなで遊ぶことができた。周りにいた大人たちも気がつけば参加していた。大人子ども、男女、年齢関係なく、コミュニケーションをとることができる。そんなことが簡単にできるのはスポーツくらいではないだろうか。運動が苦手でも、このスポーツが生み出す力を感じることはできるはずだ。 先日、その男の子が私をサッカーに誘ってくれた。社会や人との交流の原点は、こういうことからなのかもしれない。人々の関係が希薄になった今だからこそ、私はスポーツから学ぶ人との関わり方を大切にしていきたい。
スポーツの楽しさや、人と人をつなぐスポーツの生み出す力が読む人に伝わるエッセイです。スポーツの魅力がストレートに描かれていて、自分もドッジボールに参加したくなる衝動にかられる作品と言えるでしょう。作者自身は運動が大の苦手なのに、小さい時の思い出が忘れられず、初めて会う人たちも巻き込んでドッジボールを始め、心の距離を縮めていく過程が分かりやすく書かれています。一本筋が通っていて、よくまとまっている作品だと思います。